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IPリポート Vol.6【ペロブスカイト太陽電池】 正林国際特許商標事務所

あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の進展とともに市場拡大が見込まれる太陽電池。シリコン系太陽電池がコストと用途の両面で成熟するなか、脚光を浴びるのがペロブスカイト太陽電池だ。素材の改善が必要だが、変換効率ではシリコン系に匹敵する水準に到達している。製造コストの安さや、幅広い環境で使用できるのが強みで次世代太陽電池の主力とみなされている。

ベースの技術となる有機系・色素増感太陽電池で先行するフィルム大手がペロブスカイト太陽電池の特許出願でも先行。ただ鉛フリーの素材開発では決め手を欠き、その他の企業にも逆転の可能性がある。ベンチャー企業が一躍トップに躍り出る可能性もある。

次世代型太陽電池~鉛フリーの素材開発を制するのは?

知的財産管理技能士=岩垣賢

証券アナリスト=三浦毅司

企業評価への視点

  • 色素増感型太陽電池を既に事業化している積水化学工業(4204)、富士フイルムホールディングス(4901)が、ペロブスカイト型の特許出願でも先行している。両社の事業化は先進ユーザーとの協業を前提とするもので、製品化の段階では他の化学大手との提携が想定される。東芝(6502)、住友化学(4005)、カネカ(4118)、パナソニック(6752)などの出願も多い。これらの企業は太陽電池生産のリソースを持っており、優位に立つ可能性を十分に残す。
  • 現在の特許出願はモジュール化が主体で、現在の高効率ペロブスカイト型の弱点である鉛を使用しない素材での開発は決着がついていない。この分野は世界的に開発競争が激しく、日本も官民を挙げて開発に取り組んでいるが、比較的生産コストが安いために資金力の小さい企業でも技術開発が可能だ。ペロブスカイト型の研究で先行する京都大学が主導するベンチャー企業などが大化けする可能性もある。

第1章 シリコンからペロブスカイトへ

1. シリコン系太陽電池の成熟

現在の太陽電池はシリコン素材のものが主流だ。ただ、おおむね基本的な技術開発は完了し、現在の変換効率がすでに理論上のピークに近づきつつああるため、劇的な改善は難しくなってきている。

加えてシリコン素材の太陽電池の採算悪化が技術開発余力を低下させている。原料となるシリコンそのものの価格は半導体市況の活況とともに高止まりしている。一方、最終製品は中国製などの価格が低迷し、マージンが悪化している。これに伴い、日本企業の特許出願は急激に減少している。

■シリコン系、特許出願件数は右肩下がり

正林国際特許商標事務所

IoTの進展とともに、太陽電池の市場は拡大が見込まれている。特に、工場や家庭など屋内での用途拡大が見込まれるが、シリコン素材の太陽電池は一定の照度(明るさ)を必要とする。設置する場所の制約も多い。コスト削減要請と相まって、シリコン素材以外の太陽電池の開発が望まれていた。

2. ペロブスカイト太陽電池の誕生

これらの問題点を解決する新しい太陽電池として期待されるのがペロブスカイト太陽電池だ。ペロブスカイト太陽電池は、光を吸収する材料にペロブスカイト結晶構造を持つ化合物を用いたもので、2009年に日本の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らが開発した。宮坂氏はノーベル賞の候補にも挙がっている。

■低コスト、用途加工の制限ないのが強みだが

各種資料を基に正林国際特許商標事務所作成

ペロブスカイト太陽電池は有機系・色素増感太陽電池の一種で、その結晶構造から生成された電子の自由度がシリコン系太陽電池並みに高く、高効率の発電が可能だ。原材料価格や製造コストの大幅削減が可能なうえ、設置場所の制約が少ないといった性質も脚光を浴びる理由だ。さらに課題だった変換効率は20%台半ばと、シリコン系太陽電池とそん色ない水準に改善してきている。

3. 鉛フリーの素材で機能性や耐久性を追求

一方で、現在高変換率を達成しているペロブスカイト太陽電池には大きな問題がある。それは、ペロブスカイト結晶構造を持つ化合物に鉛を用いることだ。鉛は有害物質で、厳密に管理された環境化しか利用が認めれず、広く屋内外で個人や企業が利用することが出来ない。環境への対応を重視する「ESG」の考え方の広がりなどから、鉛を材料とする事業の資金調達も難しい。

世界的に鉛を使わない材料での高変換効率、高耐久性を目指した素材開発が行われており、錫(すず)を原料としたものの研究が先行しているが、未だ鉛との変換効率の違いが大きく、決定的な素材とはなっていない。

 

第2章 開発競争はフィルムメーカーが先行

1. 素材開発と装置開発は表裏一体

ペロブスカイト太陽電池の特許出願はこの太陽電池が発表された2009年以降に本格化しており、まさに新しい技術だ。シリコン系と比較しても件数がまだまだ少なく、今後も増加する見通し(特許出願書類は一部を除き、出願日から1年半経過後に公開されるため、17年と18年の件数が少ない)。企業の取り組みが多いのもこの分野の特徴で、有効性にいち早く気がついた内外企業が研究開発にしのぎを削っている。

■有機系太陽電池の特許出願件数

正林国際特許商標事務所

特許出願の中身を見ると、そのほとんどが装置(モジュール化)に係るものであり、素材そのものへの出願は多くない。このことは、画期的な材料開発により、技術優位性の順位が変化する可能性があることを示唆している。一方で、素材開発が装置開発と表裏一体であり、安定した性能を確保するためには、装置開発技術が重要であると言えるだろう。その点では、やはり特許出願で先行する企業が優位と思われる。

■企業別の特許出願分野

パテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成

2. 個別企業の出願状況

ペロブスカイト太陽電池はフイルムや基板に塗布して作成するためフイルムメーカーの既存技術との親和性が高い。現状では積水化学工業や富士フイルムなどの大手フイルムメーカーが先行している。

第2グループを形成するのは、東芝、住友化学、カネカ、パナソニックだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や大学との共同研究を通して実用化を進めようとしている。

実験段階で先行するのは京都大学。東京化成工業との共同開発により、ペロブスカイト太陽電池の研究用試薬を世界の研究者に提供している。ペロブスカイト太陽電池は製造コストが比較的安く、ベンチャー企業にとっても面白いテーマだ。新素材の開発により、京都大学が主導するベンチャー企業などが一気に強力な知財ベースを獲得する可能性もある。

■企業別の特許出願件数

パテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成

3. 積水化学と富士フイルムの戦略

ペロブスカイト太陽電池はまだ研究開発段階で、事業化に成功しているところはない。ただ、各社ともおおむね色素増感太陽電池と同様の事業展開を進めると思われる。ここでは特許出願トップ2社の色素増感太陽電池の事業戦略を紹介する。

積水化学工業は色素増感太陽電池の開発で先行している。低照度で発電可能、軽く薄い、曲げられ貼れる、といった特徴を活かして、電子広告やIoTセンサー分野での独立電源として事業化を進めている。窓などに太陽電池を貼り付けてセキュリティセンサーの電源にするとともに、余剰電力を活用する次世代セキュリティセンサーの開発、事業化を進めている。これを先進ユーザーと共同で事業化する方針だ。

一方、富士フイルムホールディングスはファインケミカル事業の一環で、色素増感太陽電池用の色素を販売している。自らが太陽電池を製造するのではなく、製造会社に対して色素を販売する戦略をとっており、最終的には他の大手と共同で製品化する可能性が高い。

■富士フイルムHD 色素増感太陽電池を含む産業機材/電子材料ファインケミカルセグメントの売上高

会社資料を基に正林国際特許商標事務所作成

(2019年1月28日)

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正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

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