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100年に1度の変革期、自動車業界の信用リスクを測るもう一つの物差し

トヨタは今年の東京モーターショーで高級車ブランド「レクサス」のEVコンセプトカーを発表

QUICKコメントチーム=岩切清司、写真=Tomohiro Ohsumi/Getty Images

世界市場で多くの機関投資家が運用の一端に据え始めたESG投資。E=環境、S=社会、G=ガバナンスの中でもEは比較的分かりやすい項目だ。相次ぐ超大型台風は地球温暖化が要因との論調もある。災害を生み出す気候変動に対処するため必要とされるのが低炭素社会、脱炭素社会への移行だが、これは従来型の産業にとっては課題であり経営リスクでもある。投資マネーや運用の世界も事情は同じで、そのリスクに対し米ムーディーズ・インベスターズ・サービスが示したのが「自動車メーカーの低炭素社会移行リスクを評価するツール」だ。

そもそもムーディーズは企業財務を対象とした信用力を評価する格付け会社。ESG投資から縁遠いように見えるが、そうではない。事業環境の変化は中長期的に企業の信用力を左右する。ムーディーズ・ジャパンで自動車セクターの分析を担当する柳瀬志樹シニア・クレジットオフィサーに話を聞くと「会社全体でESGに関する取り組みを2015年ごろから進めてきた。中でもEに関する取り組みを先行し、発行体格付を付与する際、どう考慮するかを明確化しようとしてきた」という。

具体的には環境問題に由来する信用リスクが高まる業界を明確にするために、業界別のヒートマップを作成した。

※2018年9月発行「Heat map: 11 sectors with $2.2 trillion debt have elevated environmental risk exposure」より

この場合の信用リスクの高まりとは、具体的には排ガス規制強化に伴う研究開発費の増大などを指す。利益率を圧迫し、ゆくゆくは企業の財務基盤が圧迫される可能性が出てくる。上記のヒートマップは18年版。赤枠で囲んだ自動車業界は「オレンジ」でElevated Risk Emergingとされ、最もリスクの高い水準から2番目にリスクの高い業界となる。「レッド」には石炭採掘業界がなどが認定された。

発行体格付けの参考指標

ポイントは長期の時間軸

個別企業ごとにリスクをどう反映させていくのか。取材の前段階では信用格付けに直結するものだと考えていたが、柳瀬氏からは「あくまでも発行体格付の参考指標。発行体格付とは別の位置づけだ」と説明があった。

「ESGに関するリスクが企業の業績に及ぼす影響を見極めるには長期の時間軸で考える場合が多く、普段の格付けと期間が異なる。しかし企業の信用力に及ぼす影響を考えると、向こう2~3年の財務諸表に表れないからといって見過ごすこともできない。ムーディーズの分析アプローチとしては、発行体格付に対してダイレクトに『1ノッチ、2ノッチの引き下げ』というやり方は取らず、環境リスクのみに注目した指標を作成し、これを格付けの議論をする際の参考とすることにした。各企業についての環境リスクを表したこの指標と、現在の格付けは全く異なった並びになっている」(柳瀬氏)

ポイントは時間軸なのだろう。逆説的に米テスラを例に挙げればわかりやすい。同社は電気自動車メーカーだ。環境対応の先端を走っていると評価できるものの、足元の財務諸表はお世辞にも見栄えがするとは言えない。資金繰りを間違えば信用力が急速に悪化するリスクをはらんでいる。ESGの評価だけで足元の信用力を押し上げるほど、マーケットはお人よしでもない。

9月24日に発表した今回の自動車メーカーを対象とした評価ツールでは「例えば環境規制が厳しい地域の販売台数が多いほど、その自動車メーカーの規制リスクは高いとみなすなど、様々な指標を点数化し、総合点を算出する仕組み」(柳瀬氏)だという。

規制や世論の動向も勘案

評価ツール策定は道半ば

評価ツールには外部の調査機関の予想値も利用し、各社の販売台数に占める電動車の割合が5年後、10年後にどれくらい増えるかについての見通しも考慮する。評価結果は定期的に見直す。世論の風向きで規制動向も変化し続けるうえ、各社の事業戦略に伴い将来の電動車の割合予想も更新されるため、評価ツールの結果も変化を続けるだろう。市場で利用されるESG投資の評価やルールも、統一基準の策定までは道半ばにある。

電気自動車の開発が遅れていると言われる日本の自動車メーカーについて、柳瀬氏は「電池にコストがかかる電気自動車の割合をいきなり増やすことは、自動車会社の利益率を圧迫するうえ、インフラ整備などの問題もある。電気自動車社会に移行する前の中期的対応として、海外の規制当局がトヨタやホンダが強みとするハイブリット車も税制などの優遇対象に加える可能性がある」としつつも「シェアリング、電気自動車、自動運転と、自動車セクターにとって今は大きな転換期」と話していた。日本の自動車メーカーに関する低炭素社会への移行リスク評価は現在、集計中だ。

ESG投資の流れで伝統的な投資分析・評価の手法は揺らぎ始めた。財務諸表に対する信用力の定義も新たな要素を組み込み始めたといえる。それでも手探りの局面を脱し切れておらず、グローバルマーケットは羅針盤なき運用環境へと踏み出しているように見える。

2018年から自動車関連株のTOPIXに対するアンダーパフォームが目立つようになってきた。米中貿易問題に端を発する世界景気への懸念や円高圧力など、理由はいくらでも挙げられる。だが、その一つにESGリスクを織り込み始めた可能性はないのだろうか。投資家を安心させる将来ビジョンを打ち出せるまで自動車株が相場の主役に躍り出るのは難しいかもしれない。

※QUICK Market Eyes®はトレーダーやディーラー、運用担当者の皆さまに向けたQUICK独自のマーケット・コメントサービスです。日米の個別株から債券を含めた先物市場まで幅広くカバー。証券会社や機関投資家など運用・調査の現場への取材を通じて得た専門性の高い金融情報を提供します。

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