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斎藤幸平氏「気候変動が市場経済を縮小させる」インタビューNext25Years

「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」ーー。日経QUICKニュース社(NQN)設立25周年の特別インタビュー企画で、新進気鋭の経済思想家である斎藤幸平・大阪市立大学准教授は、気候変動問題をきっかけに経済や政治のパラダイム(枠組み)が劇的に変化すると予想し、「市場経済の縮小なしには、文明の終焉(しゅうえん)という事態が起こりうる」と強調する。情報化社会では収益機会がどんどん減り、政府や企業の債務が不良債権化するとの見通しも示した。

聞き手は菊池亜矢

【3つのポイント】

①資本主義に制度疲労、矛盾の1つが気候変動問題

②財は国有、私有、コモンに3分される

③情報技術の発展で多くのモノやサービスが無料に

利潤優先の経済は変質を迫られる

――斎藤さんはカール・マルクス研究が専門です。物心ついた時にソ連は消滅していたのに、なぜ「資本論」に興味を抱いたのですか。

「子供のころから経済的不平等や不自由が生まれるメカニズムに関心があった。だからといってソ連を評価しているわけではない。むしろ最悪だ。ソ連はマルクス主義の本質である自由、平等、連帯、民主主義とはかけ離れた政治・経済体制だった」

「他方で、冷戦崩壊から30年たって、資本主義も制度疲労が露呈し、その矛盾の1つが気候変動問題という形で噴き出している。利潤追求が第一の資本主義と、地球の持続可能性は両立しない。いまの利潤優先の経済システムは早晩、変質を迫られるだろう」

――米ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は将来、世界はごくわずかのお金持ちとそれ以外の失業者が固定化したイスラエルとパレスチナのような状態になるという悲観的なシナリオを示しました。

「資本主義の継続を前提とすれば、そうだろう。戦争や革命など暴力的で破壊を伴うハードランディングに向かう可能性もある。ブレマー氏のような米国の資本主義を擁護するエリートたちですら、そうした悲観論に陥っているのが象徴的だ」

不正義や不公正への怒りは社会運動の駆動力

――強欲な人間が資本主義を修正、あるいは終わらせることができるのでしょうか。

「気候変動がゲームチャンジャーになる。まだ先の問題だと思っていた気候システムの崩壊はすでに始まっている。文明の危機であり、こうした事態に直面すると自らだけの利益追求を改めようと取り組む人々が大勢出てくる」

――環境活動家グレタ・トゥンベリさんの運動は世界中で反響を広げていますね。

「欧州では気候ストライキや反戦デモが勢いを増し、他者との連帯や支援を再構築しようとする試みが生まれている。次世代の繁栄条件が奪われるという認識の広がりが資本主義を終わらせるスイッチになりうる。オーストラリアの森林火災ではモリソン首相がハワイにバカンスへ出かけ、批判を浴びた。富裕層は酷暑や水不足、食糧危機ですら金もうけに利用したり、それらから逃げたりできる。こうした不正義や不公平を目撃した『怒り』が大きな駆動力になるだろう。米大統領選に民主党から立候補しているサンダース氏のような社会運動もそうだ」

労働者みずから出資、雇用、会社経営する時代がやってくる?

――斎藤さんが描くポスト資本主義の世界では、市場経済はどう変質するのですか。

「書籍『未来への大分岐』で対談したアメリカのマルクス主義者マイケル・ハート氏も主張するように、『コモン』(共有、公営化)の領域が広がる。コモンとは、水や電気、公共交通機関、情報通信、教育、医療といった、本来人権にかかわり、貨幣がないとアクセスできないのはおかしい財や生産手段を利用者が共同管理しようという考え方だ。企業に任せてはならず、むしろ、無償で万人に提供されなくてはならない」

「この考え方に立てば、財産の私的所有は残るにせよ、市場の役割は大きく縮小する。財やサービスは、例えば①道路や軍事、郵便は国有財産、②スマートフォンや自動車などは私有財産、③それにコモン――という3つに分かれる」

「コモンの原理は自治だ。そうすれば、参加者の問題意識や関心が高まり、自立する。地方自治体や協同組合を中心に運営すれば、管理費や安全性についての情報公開も求められる。最終的には生産活動もコモン化するだろう。ワーカーズコープのように労働者自身が出資し、雇用関係を決め、事業を運営する仕組みだ。自分たちで管理できれば働き方は大きく変わり、モノを作りやすくもなる。そのための条件は生産の分散化・水平化だが、3Dプリンターの登場でそうしたアイデアは夢物語ではなくなった」

――投資先が減り、私的所有の奪い合いが起きそうですね。

「何をコモンにするか、どの分野を私有として認めるかで競合は避けられないだろう。ただ、情報技術の発展がいずれ私有の領域を狭めていくのは確実だ。本来、希少性が働くところにしか貨幣価値は生まれないが、情報技術の進展で多くのモノやサービスが無料になっていく」

「米国の文明評論家ジェレミー・リフキン氏が述べるように、3Dプリンターが発達すればモノの生産にかかる費用は減り、価値はどんどん低減していく。膨らんだ政府や企業の債務返済の原資である利潤が生まれず、不良債権化する。情報技術に基づいた経済では価値を生む投資先がいずれなくなり、利益の源泉を失った資本主義はこの点からも維持が難しくなっていくのではないか」


斎藤幸平(さいとう・こうへい) 

大阪市立大学准教授。1987年生まれの33歳。2009年米ウェズリアン大学卒、15年独ベルリン・フンボルト大学で博士号(哲学)取得。17年4月から大阪市大経済学研究科准教授。18年、著書「Karl Marx’s Ecosocialism」(邦訳「大洪水の前に」)でマルクス主義の伝統において最良かつ最も革新的な新刊に贈られる「ドイッチャー記念賞」を受賞した。編著に「未来への大分岐」

 

※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

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