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世界経済の安定につながる特許権プール(IPリポート VOL.28)

証券アナリスト=三浦毅司(日本知財総合研究所)

安倍晋三首相は5月25日の記者会見で、コロナ治療薬の「特許権プール」創設を主要7カ国首脳会議(G7サミット)で提案する考えを示した。これは複数の特許権を一括管理して安くライセンス提供するものだ。

先進国では新型コロナウイルス薬の研究・開発が急ピッチで進んでいるが、薬価が高く新興国の患者まで行き届かない可能性がある。新興国で新型コロナの感染拡大が続くなか、安価・大量に新薬を供給する仕組みを確立すれば世界経済の安定にもつながる。

HIVやマラリアで先例

新興国向けに安く大量に新薬を供給する前例としては2006年に感染症薬の価格引き下げのために設立された国際機関「ユニットエイド」や、2010年にユニットエイドが創設した医薬品パテントプール(Medicines Patent Pool、MPP)が挙げられる。

2006年に英国・フランス・ノルウェー・ブラジル・チリの5か国により設立されたユニットエイドは、HIV(エイズウイルス)やマラリアといった感染症の治療薬の大量購入を約束することで新薬開発を促し、新興国での安価な医薬品販売を実現してきた。

ユニークなのはその財源だ。ユニットエイドは国、民間からの寄付のほか、過半を航空券連帯税、金融取引税などの税金からの拠出に頼っている。国や民間からの寄付金の変動回避や新たな資金の確保を目指したもので、財源の拡大・安定化が図られている。

■ユニットエイドの財政状態

出所:年次報告書

ただ、今回の新型コロナウイルスの感染により、航空券や金融取引による財源は大幅に減少したと思われる。今後の活動資金確保には、新しい財源の開拓が必要となる。

ユニットエイドが主導して2010年に設立されたのが、医薬品パテントプール(MPP)だ。製薬会社の合意を得た新薬の特許を安価なライセンス料でジェネリック医薬品会社に提供している。

新興国での薬の製造・販売には現地メーカーが対応する方が適切な場合が多い。欧米の製薬会社にとっても①市場規模の拡大により全体としての売り上げ増が期待できる、②ライセンス契約を標準化でき現地メーカーとの交渉の迅速化・透明化が可能というメリットがある。

通信機器やAV機器など一般的な特許権プールでは、参加者が大量の特許を拠出し、参加者間でライセンスを標準化して将来的な特許侵害訴訟を防ぐシステムとなっている。一方で医薬品の特許権プールでは欧米の製薬会社がライセンサーとなり、新興国の製薬会社がライセンシーとなる片方向のライセンス契約が一般的だ。

ライセンス料率は特許権者と特許権プールとの交渉で決まり、特許権者は自主的に料率を引き下げたりライセンス料を免除したりする。プール側は多くの現地メーカーの生産による価格引き下げを目指す。

日本では塩野義製薬(4507)がヴィーヴヘルスケア社に導出した抗HIV薬「テビケイ」(一般名:ドルテグラビル)が医薬品パテントプールに登録されており、特許を無料で開放している。

■医薬品パテントプールと一般的なパテントプールとの違い

出所:各種資料に基づき日本知財総合研究所作成

プール登録で投資家から評価も 

今回のコロナ禍で経済活動が深刻なダメージを受けたことで、医療環境の改善がグローバルな経済活動を守ることにつながると証明した。これまで医薬品パテントプールへの登録は医療アクセス問題に対するアピールといった意味合いが大きかったが、今後はグローバル経済の安定的拡大に対する貢献として位置づけられる。ESG投資が広がる中、プールへの登録が投資家からの評価につながる可能性もある。(2020年5月27日)

日本知財総合研究所 (三浦毅司 takashi.miura@jipri.com 電話080-1335-9189)

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