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明るい資本主義【09】ハイパーインフレより怖いもの

[ざっくり3行まとめ]

  • ハイパーインフレよりも長期の小幅なマイルドインフレが怖い
  • 年2%のインフレで、お金の価値は約36年間で半分に
  • MMTによる大量資金供給はバブルとその崩壊で弱者を苦しめる恐れ

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて各国政府が大規模な経済対策に乗り出したのをきっかけに「ハイパーインフレは起きるか」という議論をよく目にするようになった。

ハイパーインフレとは物価水準が月ごとに1.5倍となり、それが数年続くような事態を指す。歴史上の例としては、第1次世界大戦後のドイツ、2009年にピークに達したジンバブエなどがよく知られ、最近ではベネズエラも一時は年率268万%というハイパーインフレに見舞われた。

コロナを受けた経済対策に充てるため政府が国債を大量発行し、それを事実上引き受ける形で中央銀行が巨額の資金を供給すれば、世の中にお金がじゃぶじゃぶに広がり、お金に対する信頼が失われる恐れもある。最悪のケースとして、ハイパーインフレに対する関心が高まっているようだ。

ハイパーインフレは確かに怖い。こつこつ蓄えたお金の価値があっという間になくなってしまう。第一次世界大戦後のドイツで、紙くず同然となった札束を積み上げて遊ぶ子供の写真は衝撃的だ。

老後資金、2000万円でも足りない?

しかし、お金の価値がなくなるという意味では、ハイパーインフレよりも怖いものがある。長期間じわじわと続く、小幅なマイルドインフレだ。

マイルドインフレの明確な定義はないけれども、多くの中央銀行がインフレ目標値として掲げる年1~3%程度の物価上昇とみておけばいいだろう。なぜ、この程度の小幅なインフレがハイパーインフレよりも怖いのか。

ハイパーインフレは誰が見ても異常で、経済に悪影響を及ぼすとわかるから、政府は対策を講じようとする。中央銀行による多額の資金供給をやめ、お金への信頼を取り戻すのがその方法だ。

これに対しマイルドインフレの物価上昇はその名のとおり穏やかだが、長期間続くとその影響は大きい。日銀の目標とする2%が毎年続けば、約36年間でお金の価値は半分になってしまう。3%なら約24年間しかかからない。

米国の実際のインフレ率をもとにシミュレーションしてみると、1990年から2020年までの30年間で、ドルの価値は100ドルから48.36ドルとほぼ半分になる。この間の年平均インフレ率は2.27%だ。

 

※30年間でドルの価値は半分に
※30年間でドルの価値は半分に(出所:www.officialdata.org より作成)

 

老後を生きるために約2000万円の資金が必要になるという金融庁の報告書が話題になったが、もし20~30年でお金の価値が半分になるのなら、実際には2000万円では足りないことになる。

ところがマイルドインフレはハイパーインフレとは違い、むしろ経済成長にとって良いことだと信じられている。このため政府・中央銀行が経済政策として積極的に後押しする。中央銀行によるインフレ目標の設定はその一環だ。

このためマイルドインフレは、ハイパーインフレよりも長期間続く恐れがある。ハイパーインフレが劇薬だとすれば、マイルドインフレはじわじわ回る毒のようなものだ。しかも経済にとって「良い薬」だとして飲まされるのだから、なおさら怖い。

 

※小幅なインフレでもお金の価値は失われていく
※小幅なインフレでもお金の価値は失われていく

 

インフレ税の怖さ

念のため言っておくと、かりに物価が横ばいでも、その間、中央銀行がお金の供給量を増やしていたら、その分、お金の価値は実質薄まる。もしお金の量を増やしていなければ、物価が下落し、お金の価値は高まっていたはずだからだ。これはお金の価値の目に見えない毀損(きそん)だ。目に見えるマイルドインフレは、それ以上にお金の価値が失われる。

「インフレ税」という言葉を聞いたことがあるだろうか。物価の上昇はお金の価値を失わせるから、事実上、国民が保有する現金に対する課税と変わらない。だから政府・中央銀行による意図的な物価上昇をインフレ税と呼ぶ。

年2%程度のインフレ税など大したことはないと思うかもしれない。けれどもこれが普通の税金なら大変だ。消費税率を8%から10%に引き上げる際、政治的にどれだけもめたか思い出してほしい。

課税は本来なら国会で成立した法律に基づかなければならないのに、インフレ税がその手続きを踏まないのは、財政民主主義の観点から疑問が残る。それでも問題にならないのは、「税率」が最大でインフレ目標値の2%と小幅なことが一因だろう。これもマイルドであることがかえって怖い理由の一つだ。

MMTが見落としたもの

最近話題の現代貨幣理論(MMT)では、中央銀行が政府の当座預金に無尽蔵に資金を供給する。インフレ率が2%など一定の水準に達したところで増税し、資金を吸収するのでハイパーインフレはもちろん、高率のインフレにはならないという。

この仕組みで本当に高インフレを防げるかは心もとない。たとえば、インフレ率が2%に達したとき、景気が思うように回復していなかったら、増税に踏み切るのは政治的に困難だろう。

それ以前にMMTが見落としているのは、マイルドインフレの怖さだ。2%程度のインフレでも、長期間続けば、国民がこつこつ蓄えたお金の価値を確実に奪っていく。

「それでも景気が良くなれば、差し引きではプラス」という反論があるかもしれない。だが経済が成長するためにインフレにする必要はない。長い目で見ればインフレ、デフレと経済成長は無関係だ。前回の連載で述べたように、19世紀後半の英米の高い経済成長は、デフレの下で実現している。

中央銀行が大量の資金を供給すれば、一時のバブルを生む可能性はある。けれども息の長い経済成長にはつながらない。バブルはやがてはじけ、不況を招き、MMT支持者が助けようとする社会的弱者をかえって苦しめる。

ハイパーインフレと違ってマイルドだからこそ、マイルドインフレは怖い。人工的なお金の操作に頼らず、消費者の自然な需要に基づき、企業の自由な競争で着実に豊かさを築いていこう。それが資本主義の王道だ。(QUICKリサーチ本部長 木村 貴)

著者名

QUICKリサーチ本部長 木村 貴

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