【QUICK Market Eyes 阿部哲太郎】10月 19日付の日刊工業新聞は「ソニー(6758)の有機ELパネルを用いたマイクロディスプレーが、アップルが2021年に発売予定のヘッドマウントディスプレー(HMD)に採用される」と報じた。株価は好感した様子で19~20日と続伸した。HMDはゲーム用途や仮想現実(virtual reality、バーチャル・リアリティ、VR)などに活用されるとみられる。
■新たな「現実」の世界
14日未明のアップルが発表した新型のiPhone12の高級機「Pro」には、自動運転などで使われる3次元レーダーセンサーの「LiDAR(ライダー)」が搭載される。LiDARセンサーを使って、光が物体に反射して戻ってくる間の時間を計測することにより、距離の測定や周辺空間の把握がこれまでより高精度となる。写真や動画の画質も向上するほか、カメラを使ったAR(Augmented Reality、オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実)のアプリケーションもよりリアルな体験が可能になりそうだ。
アップルはかねてよりARやVRで使われるARグラスやヘッドマウントディスプレイを発売すると予測されていた。2020年5月にはスポーツや音楽ライブの映像をVR端末に配信する米NextVR(ネクストVR)社を買収するなど、新たな現実の時代の本格化に向けて準備を進めているとみられる。
■AR・VRの活用
拡張現実(AR)とは、現実の映像と架空の映像を組み合わせて様々な体験ができる技術を指す。現実の映像にスマートフォンやARグラスに映し出される映像を重ねることにより実現される。すでにARは身の回りのあらゆる場面で活用されている。AR技術とGPS(全地球測位システム)を組み合わせたスマートフォンゲーム「Pokmon GO、ポケモンゴー」や「ドラゴンクエストウォーク」は国内や海外で大人気となった。また、全世界で人気のカメラアプリ「SNOW、スノー」など様々なARアプリが幅広く利用されている。
これに対して仮想現実(VR)は、VRゴーグルを着用して映し出される360度の景色全てが仮想空間となる体験となる。ソニーのプレイステーションVRや米フェイスブックが発売したOculus Rift(オキュラスリフト)などからVR端末でさまざまなコンテンツやソフトによるリアリティのある体験が出来る。
ゲームなどのエンタメだけでなく、産業のあらゆる場面でAR・VRの活用は進んでいるる。家具大手のイケア(IKEA)は、店舗専用のARアプリを顧客の体験に活用している。店舗内の現実の風景に仮想の家具を組み合わせて、購入前にトータルコーディネートを確認できる。トヨタ自動車(7203)など製造業各社はVR・ARを活用した生産製の改善をすでに進めている。人手不足解消や熟練した技能工の知見の共有、生産性向上になくてはならない技術だ。5G(次世代通信規格)の本格化によりこれまでよりもリアリティのある映像配信や満足度の体験が実現するとの期待が広がっている。
■AR・VR関連株は?
米調査会社IDCによると日本のAR・VRのハードウエア、ソフトウェアの市場規模は23年に、18年比で2.7倍の34億ドル(約3580億円)に達すると予想される。
ソニーは冒頭で紹介したアップル向けのHMDのマイクロディスプレイの需要が期待される。また、新型のiPhone12ProなどハイエンドスマートフォンでAR機能の注目度が高まり、 LiDARセンサーの搭載機種の拡販が進めば、半導体イメージセンサーやTOF(測距)センサーなど高付加価値の部品の需要増につながりそうだ。プレイステーションVRが活況となればゲーム部門に対しても好影響となるだろう。
バンナムホールディングス(7832)、カプコン(9697)、スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)などの知的財産権(IP)を多く保有するゲーム開発大手にも恩恵が大きそうだ。
また、AR・VRのコンテンツは、2次元のコンテンツに比べてデータが膨大となるためソフトウエアのテスト・品質保証サービスを手掛けるSHIFT(3697)も期待できそうだ。
10月8日に発表した2020年8月期連結売上高は前期比47%増の287億円、営業利益は同53%増の23億円と新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業のデジタル化ニーズが高まり大幅な増収増益となった。製造業やエネルギー業、次世代通信規格(5G)に関連する通信業からの受注が収益拡大をけん引した。コロナ以前から企業の引き合いは強く、ソフトウエアテストサービスを開始した2010年8月期以降、10期連続で1.5倍以上の成長が続いている。