【QUICK Market Eyes 大野弘貴、川口究、片平正二】前年はコロナ禍で投資家の先行き不透明感が強まった一年だった。しかし、確固たる方向性としてその存在感を一段と強めたのがESG投資だったと言える。昨年末にかけ証券会社から様々な関連リポートが公表されていた。
■ESGへの取り組みは途上段階、気候変動への注目増す=BofA
BofAセキュリティーズは1月4日付リポートで、直近、同社が主催したグローバルESG(環境・社会・ガバナンス)カンファレンスで機関投資家向けに行ったアンケート結果を公表した。
同調査では機関投資家が2021年、ESGに関連した最優先課題に気候変動を挙げた回答比率が60%後半となり、最も大きかった。次点以降はガバナンス、サプライチェーンが並んだ。BofAは「興味深いことに、我々のカンファレンスでは気候変動とサプライチェーンに関連するパネルも最も多くの聴衆を集めた。組織がこれらのトピックを重視している」と補足した。
財務リスクを管理する上で最も重要な要素として、81%の回答者がガバナンスを挙げた。多様性やコミュニティへの関与といった「S(社会)」について、21年の重点分野として取り上げた回答者は全体の4分の1にも満たなかった。
ESGへの取り組みが改善することで投資機会があるセクターに「石油・ガス」(49%)、「公益事業」(44%)、「一般消費財(34%)、「素材」(31%)が挙げられた。地域別では、アジア(41%)でESGの改善に伴い最もパフォーマンスが向上すると見込まれた。
一方、同調査では、投資家がESGに関する社内への取り組みがまだ初期段階にあると考えているとも判明。
回答者の3分の2が、投資プロセスにおいてESGを導入していないと回答した
■19年度CO2排出量は3.4%減、再エネより省エネの貢献が大きい=大和
大和証券は2020年12月22日付リポートで、日本の2019年度の温室効果ガス(GHG)「総排出量は12億1300万トンと、前年度比2.7%減少したことを踏まえ、「14年度以降6年連続で減少し、パリ協定の基準年度から14.0%減少したことになる」と指摘。パリ協定の中期目標年度の30年度まで残り11年あることから、単純計算では「日本のパリ協定の削減目標『23%』削減は視野に入ってきた」という。
ただ、これは2070年頃のカーボンニュートラルを想定したものであり、菅政権はカーボンニュートラルの達成を50年に前倒ししたので、同目標を来夏をめどに引き上げる議論がすすんでおり、更なる削減が必要になる。
19年度の二酸化炭素の排出量は、前年度比3.4%減と6年連続で削減したが、一人当たりのGDP(国内総生産)は0.1%減だったので「経済と環境の好循環」の5年連続の達成にはならなかった。削減の多くはエネルギー強度(2.8%減)の改善効果で、炭素強度(0.2%減)はあまり貢献しなかった。その点については、「やはり主役は『省エネ』で、再生可能エネルギーに関係する『エネルギーの低炭素化』はあまり貢献しなかったことがわかる」と指摘した。
■日本企業独自の企業不祥事発生原因、同調圧力、労働者の地位の低さなど=SMBC日興
SMBC日興証券は2020年12月22日付で、17日にSMBC日興が行ったセミナーの内容を要約したリポートを発行した。セミナーテーマは「ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点から考える日本企業における不祥事の発生原因」。山口利昭法律事務所の山口利昭弁護士を招いて開催された。
リポートでは日本企業におけるコンプライアンスを考える際に重要となるのが、日本企業に独特の企業不祥事発生原因であると要約。具体的には(1)同調圧力、(2)労働者の地位の低さ、(3)行政規制への依存、(4)自部署のみで解決しなければならない雰囲気の情勢、(5)義理人情によって生じる「見て見ぬふり」が挙げられている。「いずれも組織の構造的な欠陥であり、このような欠陥を除去することが不祥事を防ぐ上で重要」とされた。
企業価値を大きく毀損する不祥事に、初めに生じた不祥事そのもの(一次不祥事)ではなく、不祥事が生じてしまうような企業構造の欠陥が露呈すること(二次不祥事)であるともまとめられている。
不祥事が起こらないように努めるだけでなく、二次不祥事が生じないような組織体制を構築していくことも重要であると指摘された。
また、近年ではハラスメントの相談件数のうち半数が第三者によるものであることから、「ハラスメントは当事者だけの問題ではなく組織の問題となっている。会社はハラスメントに対し、組織の問題として対処する必要があるだろう」とも要約されている。
■エンゲージメントテーマが開示内容の妥当性になる可能性も=三菱UFJ証
英金融行為規制機構(FCA)は12月21日、英国の最上位市場であるプレミアム市場の上場企業に対して気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に準拠した開示を義務づける上場規則の変更を発表した。2021年1月1日に同市場上場の約460社に適用が開始され、22年春発行の21年度実績を示すアニュアルレポートからTCFD提言準拠の開示が行われることになる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は23日付リポートで、「上場規則とコーポレートガバナンス・コード(CGコード)では強制力は異なるものの、上記、(CGコード)の改訂とプライム市場上場企業への開示推奨を規定すれば、疑似的に英国の上場規則を日本でも再現することが可能になる」と指摘した。日本では東証の市場区分の見直しが進んでおり、上場企業は改定後のCGコード内容を踏まえ上場市場を検討し、プライム市場上場企業にはコーポ―レートガバナンスに対する厳しい基準が適用されることが見込れている。日本経済新聞は20日に、21年夏までにまとめる成長戦略において、日本政府は国内外からグリーン投資を呼び込むため企業に関連する情報開示を促す指針を作ると報じており、「前倒ししてコーポレートガバナンス・コード改訂において環境面、特に気候変動に関する情報開示を推奨する可能性もある」とみている。
もし上記の想定が実現するようであれば、エンゲージメントテーマは「開示の有無ではなく、開示内容の妥当性になることも期待できる」と指摘した。
■環境関連のETPに組入れられそうな銘柄を抽出=三菱モルガン証
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は28日付のリポートで、アクティブ上場投資信託(ETF)のARKイノベーションETFなど先進技術に関連したETFに資金が流入し、好パフォーマンスを記録していることを踏まえ、「環境関連の上場取引型金融商品(ETP)に組入れられそうな銘柄を抽出してみた」と分析を行った。リポートでは、最近、資金の大幅流入が観測される環境関連ETPについて「定量・定性の両データに基づいて関係性が相対的に高いと判定される可能性がある日本株を機械的に抽出してみた」としつつ、「定性判断はテキストデータを用いたキーワード数で判定したため、個別銘柄の詳細をチェックする必要がある点は付け加えておきたい」とも指摘。「グローバル株式を投資対象とした場合には組み入れられるためには相当に環境ビジネスに特化していなければいけないと想定するが、仮に日本株のみを投資対象とするETP(やテーマ型投信)が構築された場合には、これらの銘柄の中で候補になるものがあると想定されるだろう」と今後の採用に期待を示していた。
環境系テーマ型ETPのリターンとのベータが高い日本株
コード | 銘柄名 | コード | 銘柄名 |
1407 | ウエストHD | 6013 | タクマ |
1887 | 日本国土 | 6055 | Jマテリアル |
1939 | 四電工 | 6504 | 富士電機 |
1945 | 東京エネシス | 6506 | 安川電 |
1946 | トーエネク | 6594 | 日電産 |
1963 | 日揮HD | 6641 | 日新電 |
2151 | タケエイ | 6674 | GSユアサ |
2337 | いちご | 6752 | パナソニック |
2768 | 双 日 | 6762 | TDK |
3105 | 日清紡HD | 6810 | マクセルHD |
3150 | グリムス | 6838 | 多摩川HD |
3407 | 旭化成 | 6971 | 京セラ |
3498 | 霞ヶ関キャ | 6996 | ニチコン |
3856 | Abalance | 7004 | 日立造 |
3861 | 王子HD | 7201 | 日産自 |
3891 | 高度紙 | 7205 | 日野自 |
4080 | 田中化研 | 7240 | NOK |
4082 | 稀元素 | 7912 | 大日印 |
4245 | ダイキアクシス | 7987 | ナカバヤシ |
4651 | サニックス | 8002 | 丸 紅 |
5019 | 出光興産 | 8088 | 岩谷産 |
5020 | ENEOS | 8905 | イオンモール |
5021 | コスモエネHD | 9514 | EF-ON |
5334 | 特殊陶 | 9517 | イーレックス |
5912 | OSJBHD | 9519 | レノバ |
5951 | ダイニチ工 | 9960 | 東テク |
<金融用語>
コーポレートガバナンス・コードとは
2013年に日本政府が閣議決定した「日本再興戦略(Japan is Back)」及び2014年の改定版で、成長戦略として掲げた3つのアクションプランの一つ「日本産業再興プラン」の具体的施策である「コーポレートガバナンス(企業統治)」の強化を官民挙げて実行する上での規範。「コード」は規則を意味するが、細則の規定集ではなく原則を示したもの。2015年6月から適用されている。 本コードは大きく5つの基本原則で構成され、(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務、(5)株主の対話、に関する指針が示されている。 「日本版スチュワードシップ・コード」が機関投資家や投資信託の運用会社、年金基金などの責任原則であるのに対し、本コードは上場企業に適用される。両コードともに法的拘束力は無いが、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」の精神の下、原則を実施するか、さもなければ実施しない理由を説明するか求めている。 本コードの策定を受け、東京証券取引所は上場制度を一部見直し、同様に2015年6月から制度改正が適用となっている。従来からあるコーポレートガバナンス報告書に本コードの実施に関する情報開示を義務付け、実施しない場合はその理由の明記が必要。政策保有株(持ち合い株)に関する方針や取締役会に関する開示などが中心であり、会社の持続的成長・中長期的企業価値向上に寄与する独立社外取締役を2名以上選任することも新たな上場制度に盛り込まれた。 2018年6月には初の改訂版を公表。政策保有株削減の促進、経営トップの選任・解任手続きの透明性、女性や外国人の登用による取締役会の多様化を求めた。