QUICK Money World(マネーワールド)

個人投資の未来を共創する
QUICKの金融情報プラットフォーム

ホーム 記事・ニュース 中国の豚生産回復を受けた環境エネルギーへの影響―マーケット・リスク・アドバイザリー・新村氏

中国の豚生産回復を受けた環境エネルギーへの影響―マーケット・リスク・アドバイザリー・新村氏

(※この記事は1月21日に配信されたQUICK端末からの転載です)

2021年はラニーニャ現象の発生により、日本海側では記録的な豪雪となり、気温も例年よりも低い。しかし、世界的に見ると2020年12月は比較的広い範囲で気温の低下が見られたが、2021年1月6日~1月12日については南米・北アフリカ・インドから南西アジアにかけては高温に転じており、穀物を初めとする農産品の供給への懸念が強まっている。ラニーニャ現象が発生した年には、地区ごとに渇水や多雨など異なる天候イベントが発生し農産品供給の減少を通じて価格に大きな影響を及ぼしてきた。現在、再生可能エネルギーの1つとして注目されているバイオマス発電に用いるパーム油も同様で、過去20年を振り返るとラニーニャ現象発生の時には価格が大きく上昇していることが確認されており、今年に関しても同じだった。

■大豆油供給増と環境規制がパーム油需要に影響

今回のパーム油価格上昇は2018年に中国で発生した豚熱(豚コレラ)の影響で豚の殺処分が進み、中国の養豚数が減少する中で飼料向けの大豆ミール需要が減少、そのために必要な原料である大豆の輸入が減少したことで副産品である大豆油の供給、代替食用油であるパーム油の需要が増加したことが影響したものであることは疑いがない。しかし、今回のラニーニャ現象が供給面を意識させて価格上昇に寄与したことも影響したと考えられる。しかし、このパーム油価格には下押し圧力が強まる展開が予想される。理由は大きく2つある。1つは中国の養豚数が増加して中国の豚の資料としての大豆ミール需要が増加していること、2つめは、環境重視型社会へのシフトに伴うバイオ燃料需要が、逆に規制によって減少する可能性があること、だろう。

恐らく影響としては1つめの中国の養豚数増加の影響が大きいと考えられる。中国の養豚数は2018年の豚熱発生時には4億2,817万頭いたが、屠畜が進み2019年には3億1,041万頭まで減少していた。このため、中国の飼料向け大豆ミール=大豆需要が減少していた訳だ。しかし豚肉価格の高騰もあって生産者が養豚数を増加させたため、昨年11月の段階で例年の9割程度に回復したと中国農業農村省が発表しており、今後、養豚向けの大豆ミール・大豆需要は増加する可能性が高い。米農務省の見通しでは2020年の中国の豚肉消費は前年比▲0.8%の4,305万トン、豚肉生産は前年比横ばいの3,800万トン、豚肉輸入は+7.3%の515万トンとなる見込みだ。2021年は、消費が+11.5%の4,799万5,000トン、生産は前年比+4.8%の4,350万トン、輸入は+2.7%の462万トンが見込まれており、消費の増加と生産の増加、輸入の伸び鈍化が見込まれている。このことは中国内外の豚肉価格が下落するが、飼料向け需要の増加で大豆・大豆ミール価格が上昇する一方で、大豆油の供給量増加により大豆油の価格は下落、転じてパーム油が下落する見込みであることを示している。

もちろん、米国の新政権が中国に対して何らかの経済制裁を行うようであれば話は別だが、米国はトランプ政権時代に加速した国内の分断を回避するため、国内の声を反映した外交政策を行わざるを得ず、基本的に「輸出したい」と考えている農畜産品生産者の声を反映して輸出に関する関税などは緩和される、と予想される。ここは米国内で広がる嫌中姿勢とはやや異なる対応になるのではないか。

■規制強化による使用制限の可能性

2つめはバイオ燃料問題。今回、欧州主導で進む環境重視型社会へのシフトは、コロナ、米国で環境重視政策公約を掲げたバイデン候補の勝利、米国のパリ協定への再加盟を考えると、バイオ燃料の需要は増加してもおかしくない。しかし、現在、バイオ燃料に用いられているパーム油の主要生産地域であるインドネシアやマレーシアでは、パーム油生産が著しい環境破壊を伴って進んでおり、決して環境に優しいとは言い難い。昨年8月の同コラムで解説したとおり、インドネシアのパーム油開発の顕著な進捗は、アジア通貨危機を契機に輸出主導型の経済への移行を画策する中で、インドネシア経済の主要部門であるプランテーション分野を強化する目的で外資導入を促進させたことが背景にあるため、同国としてもそう簡単にこの旗印を下ろす訳にはいかない。

しかし、欧州は食品に用いる農産品をバイオ燃料に用いることを禁じており、休耕地などで取れるひまわり油や菜種油を利用しており、インドネシアやマレーシアに対しては厳しい姿勢を取っている(国内のひまわり油や菜種油生産者への配慮、という面も無視できない点ではあるが)。好むと好まざると、今回の環境規制強化が欧州基準で進んでいる以上、パーム油の使用に関して何らかの制限がつけられる可能性は無視できない。日本ではバイオ燃料発電の燃料としてパーム油が用いられているため、今後こうした発電プロジェクトにも影響が出てくる可能性はあるだろう。このように、欧州が望む形の環境規制が遵守されれば、パーム油価格を需要面で中・長期的に下押しすることになると考えられる。

ラニーニャ現象の影響で高値を維持するパーム油だが、価格には下押し圧力が掛る展開が予想される。


新村 直弘(にいむら なおひろ)氏
東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月に企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。また日経新聞や週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済等のメディアにも多数寄稿。著書に「調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門」、「天候デリバティブのすべて」「コモディティデリバティブのすべて」がある。

著者名

マーケット・リスク・アドバイザリー 代表取締役 新村直弘

※この記事はクリップ・コメントが表示されません。

ニュース

ニュースがありません。

銘柄名・銘柄コード・キーワードで探す

対象のクリップが削除または非公開になりました
閉じる
エラーが発生しました。お手数ですが、時間をおいて再度クリックをお願いします。
閉じる