2022年は、債券市場発の変動性の高まりに備え、十分な分散が必要でしょう。今年は、2020年のパンデミックを除けば、数年ぶりに金融市場のリスクが高まる年になるかもしれません。
偏りは、米国大型成長株式にあります。
1つ目の解決策として、インフレと金利上昇の両方に備えるため、①インフレ時に優位な「米国リート」と、②金利上昇時を含めて下値抵抗力の強い「米国ハイ・イールド債券」に分散をしておきたいところです。詳しくは、こちら(2022年の米国リートと米国ハイ・イールド債券(グローバル・マクロから))をご参照ください。
2つ目の解決策として、同じ米国株式でも、大型成長株式に偏りがあるファンドや(S&P 500など)時価総額加重のインデックスファンドやETFではなく、③バリュー株式のファンドか、④多くの銘柄に広く薄く投資をしているファンドに入れ替えを行うことが考えられます。
特に、上記④は、2000年以降の成長株式の調整局面のみならず、長期でも良好なパフォーマンスが得られています。
なぜなら、多くの銘柄に広く薄く投資をしているファンドは、①新しく、まだ小さな銘柄の利益・株価の成長や、②割安に放置されている銘柄の「戻り」を取ることが期待されるためです。
これに対して、大型成長株式に偏りがあるファンドやインデックスファンドは、①分散効果に乏しいほか、②大型銘柄は大きな成功を収めてきただけに、将来の利益や株価の成長性は小さくなると期待されます。
12月FOMC議事録が発した警告:逆回転に注意
先週は昨年12月分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表されました。ポイントは、次の3つです。
- 利上げのペースは前回と比べ、速くなる可能性がある(“They noted that current conditions … could warrant a potentially faster pace of policy rate normalization.”)、
- 利上げ開始からバランスシート縮小開始までの期間は、前回と比べ、短くなる可能性がある(“participants judged that the appropriate timing of balance sheet runoff would likely be closer to that of policy rate liftoff than in the Committee’s previous experience.”)、
- バランスシートの縮小ペースは、前回と比べ、速くなる可能性がある(“Many participants judged that the appropriate pace of balance sheet runoff would likely be faster than it was during the previous normalization episode.”)。
すなわち、短期金利の引き上げも急ぎ、保有債券の償還や売却によるマネーの回収も急ぐということです。
これらは、イールドカーブ全般に金利上昇圧力をもたらします。資産価格の計算式で言えば、(分母の)割引率を引き上げ、景気の引き締めから(分子の)企業利益やキャッシュフローを抑制することで、資産価格に下落圧力をもたらします。加えて、債券の供給と流動性の減少から、資産市場全般の需給が悪化します。すなわち、これまでの流れが逆回転するということです。
米連邦準備制度理事会(FRB)はこれを「急ぐ」方針です。よって、我々も、金融市場の変動性上昇に備え、分散投資を「急ぐ」べきでしょう。
3つの経路で減らされる金融市場の流動性
利上げとバランスシート縮小の2つのオペレーションのうち、特に、バランスシートの縮小は、2018年のクリスマス・イブにかけての株価調整や2019年秋のレポ危機につながっており、注意が必要でしょう。
今後、金融市場からは、次の3つの経路で、流動性が吸収されていきます。
まず、FRBは今年4月以降、国債の買い入れを止めるため、それ以降に国債発行残高に上乗せされる(=新たな財政赤字に対応する)米国債は市中で消化される必要があります。
2021年に米国債の発行残高は約1.8兆ドル増えましたが、FRBはその約半分にあたる約9,600億ドルを買い取りました。別途、FRBはモーゲージ担保証券(MBS)を約5,700億ドル買い取っています。
2022年に国債発行残高は約1.2兆ドル増える見通しであり、今年4月以降は、発行全額が市中での消化となります。
新たな財政赤字の分だけでなく、過去の赤字についても国債が「発行」される
次に、FRBは今年の後半にも、①保有債券の元本償還金を再投資せず、また、②保有債券の売却を開始することで、バランスシートを減らしていく見込みです。①FRBが元本償還金を再投資しないということは、(過去の財政赤字に対応する)借換債の発行分を市中消化する必要があることを意味します。また、②保有債券の売却は、FRBが(過去の財政赤字に対応する)手持ちの債券を事実上「初めて」市中に売り出すことを意味します。その効果を例えれば、FRBも「国債やMBSの発行主体」になるのと同じです。
すなわち、2022年後半以降は、新たな財政赤字を賄う新規の赤字国債に加えて、過去の財政赤字を賄った米国債も市中に放出され、ダブルで資金が吸収されるわけです。
FRBは、2018年7月からの1年間で、約4,550億ドルの債券を減らしました。言い換えれば、財務省による赤字国債の新規発行に加えて、多額の債券を「追加発行」したわけです。上述のとおり、FRBは今回、これよりもバランスシートの減少ペースが速くなると見込んでいます。
財務省一般勘定の残高を回復させることで、流動性はさらに吸収される
最後に、財務省は「一般勘定」と呼ばれるFRBに持つ決済口座の残高を引き上げることで、金融市場の流動性をさらに減らしていきます。このチャネルによって、さらに約5,000億ドルの資金が民間部門から吸収されていくと見られます(→この節の残りはテクニカルなので、読み飛ばしても大丈夫です)。
財務省一般勘定は、税収や財政支出、国債の発行金や償還金をやりとりする財務省の口座です。この口座の残高は、税収や国債発行によって増加し、財政支出や国債償還で減少します。
財務省は、各月や各四半期に受け取るであろう税収や、支払う必要がある財政支出や国債償還の金額を大まかに把握しているため、不足を補う分だけの国債を発行します。このとき、民間部門のお金の量を考えると、税収の支払いや国債発行によってお金は民間部門から政府に渡りますが、これとほぼ同額の財政支出や国債償還によってお金は政府部門から民間部門に戻されるため、民間部門のお金の量は変わりません。
しかし、仮に、政府が財政赤字を大きく上回る額の国債を発行するとどうなるでしょうか。民間部門からは資金が吸収されて、財務省一般勘定の残高は増加します。
昨年8月の債務上限到達以降、財務省は一般勘定の残高を取り崩すことで、財政支出や国債償還に対応してきました。債務上限は昨年12月に引き上げられており、財務省は一般勘定の残高を回復させる予定です(→すでに始まっています)。
昨年末時点で一般勘定の残高は約2,800億ドルでしたが、財務省は、今夏頃までにはこの残高を約8,000億ドルに引き上げる見通しです。言い換えれば、約5,000億ドルの資金が民間部門から吸収されていきます。
FRBはなぜ、バランスシートの縮小を急ぐのか
FRBは、12月議事録の中で、前回の利上げ開始時(2015年12月)との違いとして、経済の力強さ、インフレ率の高さ、労働市場の引き締まり、そして、バランスシートの規模を挙げています(“Most notably, participants remarked that the current economic outlook was much stronger, with higher inflation and a tighter labor market than at the beginning of the previous normalization episode. They also observed that the Federal Reserve’s balance sheet was much larger, both in dollar terms and relative to nominal gross domestic product (GDP), than it was at the end of the third large-scale asset purchase program in late 2014.”)。
注意が必要なのは、最後に挙げられているバランスシートの規模です。
2020年9月末時点のFRBの会計報告書によれば、債券ポートフォリオ部分からの利回りは約1.55%と計算されます。
他方で、FRBは発行する準備預金に対して現在は0.15%の利息を支払っています。例えば、政策金利が現行よりも1%引き上げられると、この水準も1.15%に引き上げられます。多額の準備預金が貸し出しに使われ、マネーサプライが増えて景気が過熱することを抑制するためです。
もちろん、FRBは、発行貨幣などゼロ金利の負債もありますから、政策金利が現状から1.5%引き上げられただけで、逆ザヤに陥るわけではありません。
ただし、簡単な計算によれば(FRBが打ち止め水準とする)2.5%まで引き上げられると収支は均衡します。そればかりではなく、特に長期の市場金利が上昇すると、債券を売却するときに、損失が発生して、収支(P&L)が悪化します。
長期金利が上がってしまうと、①保有債券に損失が出るわけですし、②損失を回避するために保有債券の売却をあきらめると、ポートフォリオの資金収支が逆ザヤになる事態が生じます。
FRBにとってみると、長期金利が低いうちに、バランスシートの縮小に着手し、保有債券を売却する必要があります。しかし、上述のとおり、債券の売却と流動性の吸収が同時に起きるため、バランスシートの縮小はとても困難な作業になります。
割高資産の調整:『バーナンキ・ショック』を思い出す
2022年は多額の流動性が金融市場から取り払われるか、あるいは、その先読みから懸念が生じ、これが、債券市場の金利上昇につながる恐れがあるでしょう。
投資家は今後、国債やMBSよりも魅力の高い資産を手放して、国債やMBSを消化していく必要があります。投資家は当然のごとく、国債やMBSに高い利回りを要求するでしょうし、投資家がすでに保有していた資産は売却されることになります。こうした動きが、割高な資産のバリュエーションをリプライスさせていくでしょう。
2013年の『バーナンキ・ショック』を忘れてはいけません。バーナンキFRB議長(当時)は、国債の買い入れを減らすと言っただけで、実際に買い入れを減らしていないのに、10年金利は3カ月間で2%付近から2.8%付近まで一気に上昇しました。需給が崩れた瞬間です。
当時は、実質ベースの長期金利がプラスでしたが、現在はマイナスですから、ファンダメンタルズの観点から国債が割高であることは確かです。
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