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利上げすると為替はどうなる? 米国の利上げとドル円の関係をわかりやすく解説

記事公開日 2022/3/1 16:00 最終更新日 2022/5/6 08:17 経済・ビジネス コラム・インタビュー 利上げ FX インフレ 金融コラム

利上げと為替の関係を探る 米利上げは円安要因?円高要因?

【QUICK Money World 荒木 朋】先進国で金融緩和を縮小する動きが強まっています。新型コロナウイルス禍からの景気の持ち直しやインフレ率の上昇加速を受け、大規模な金融緩和政策を終了するとともに利上げに踏み切る国も出てきました。世界最大の経済大国である米国は、今年3月にも利上げを決定すると予想されています。そもそも利上げとは何か?という基本的なことから各国が利上げに動く理由、利上げと為替の関係などについて詳しくみていきたいと思います。

利上げとは? 景気・インフレ過熱を抑制する金融政策手段

「利上げ」とは、米連邦準備理事会(FRB)や日本銀行など各国の中央銀行が政策金利を引き上げることを指します。政策金利は景気や物価、金融システムの安定を図るため中央銀行が金融政策の手段として設定する短期金利のことです。政策金利を上げ下げすることで、民間金融機関の貸出金利や預金金利などに影響を及ぼし、ひいては企業の設備投資や個人消費といった実体経済にも波及することを狙うものです。

政策金利の引き上げ(=利上げ)は、景気が過熱気味だったり、物価が継続的に上昇するインフレーション(インフレ)加速への懸念が強まったりした場合に、それを抑制することを目的に実施されます。具体的な波及経路を見てみましょう。利上げを行うと、一般的に民間金融機関の貸出金利や預金金利といった市場金利が上昇するため、企業は設備投資を控えるようになったり、個人は貯蓄に回すなどしたりして消費を抑制するようになります。その結果、景気全体の過熱を抑える効果が期待できるようになるというわけです。

反対に景気が悪化したり、物価が継続的に下落するデフレーション(デフレ)に陥ったりした時などには、景気を支える目的で中央銀行は利下げに動きます。

過去の各国中央銀行の金融政策のパターンを振り返ると、利上げは景気が抑制され過ぎるのを考慮して慎重かつ段階的に実施されることが多く、反対に利下げする場合には景気浮揚を狙って短期間の間で大胆な措置を講じる傾向があると言われています。

米国は3月に利上げ実施の公算

現在、金融市場で最も注目されているのが、世界最大の経済大国である米国の金融政策の行方です。2020年3月の新型コロナウイルス禍において、FRBは利下げと量的金融緩和を伴う大規模な金融緩和を矢継ぎ早に実施しました。その後、景気は順調に回復し、21年11月には量的金融緩和の縮小に着手。その量的緩和は22年3月に終了する予定です。そして、3月15~16日に開催される米国の金融政策決定会合である米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2018年12月以来となる利上げが決定されるとみられています。

 

FRBにとってやっかいなのは、景気の過熱というよりも、想定以上にインフレ率の上昇が加速している点です。インフレ状況を把握する上で多くの国で一般的に採用されている経済指標の1つに消費者物価指数(CPI)がありますが、2月に発表された1月の米国のCPIは前年同月比7.5%上昇と前の月(7.0%)から伸びが加速し、1982年2月以来、約40年ぶりの高い伸び率を記録しました。

米国のCPI

※米国のCPI(前年同月比、%)

先ほど過去の金融政策のパターンで、利上げ局面では慎重かつ段階的に実施されることが多いと述べました。実際、過去の直近2度の米利上げ局面(2004年6月~06年6月と15年12月~18年12月)を振り返ると、金融政策会合ごとの利上げ幅は0.25%で、景気や物価動向を見極めながら段階的に実施されていました。

もっとも、今回の利上げ局面ではインフレ加速を鎮静化させるため、3月の金融政策会合で0.50%の利上げもあり得るとの見方も浮上しているのです。現在のインフレ加速は需要拡大というよりも製品や人材不足などによる供給制約の影響が大きいとも言われています。仮に景気の足腰が盤石ではない状態で大胆な利上げが実施されることになれば、米景気を冷やしかねないと懸念する声も出ています。

米国の利上げは為替のみならず世界の株式市場や他国の金利、さらには原油や金といった商品市況にも影響を与えます。今回の利上げの狙いは景気の過熱感や金融資産のバブル的な兆候に対する先手と言うより、過度な物価上昇を抑制し景気の大幅な落ち込みを避けることにあります。長きにわたって先進国の物価上昇は緩やかなペースでした。日本にいたってはマイナスに沈んでいくデフレ経済です。これらが一気に反転したことで世界のあらゆる金融市場に動揺が走り、経済指標や中央銀行や政治家と言った要人発言に一喜一憂する展開が続いています。価格変動が大きく先行きの見極めも難しい状況です。

QUICK Money Worldでは日々のマーケットの変化を専門記者・ライターが伝えています。以下のリンク先では利上げに絡んだ「為替・金利」に関する記事を一覧にしています。マーケット情報の収集と知見の獲得にぜひご活用ください(一部は会員限定コンテンツとなっています)

「為替・金利」の記事・ニュース一覧_ボタン

利上げと為替の関係は?

次に利上げと為替の関係を考えてみましょう。

為替レートは2つの通貨の交換比率なので、基本的には2国間の相対的な力関係・需要と供給のバランスによって決まります。為替レートを左右する力関係・需給バランスの変動要因として、2国間の景気動向や物価動向、金利動向などが挙げられます。

先に、景気が過熱したり、インフレが加速したりする場合に利上げが実施されると紹介しましたが、為替の変動要因となる景気・物価・金利の各動向は利上げと密接に関係しているので、それぞれ1つずつ整理していきましょう。今回は米国(ドル)と日本(円)の関係をみていきます。なお、米国では利上げが見込まれる一方、日本はゼロ金利政策が当面続くと予想されています。

まずは景気です。利上げを実施するということは景気が力強い回復を見せている証左といえます。米経済の成長力が日本経済に比べて相対的に強いとなれば、ドル建て資産に対する需要が拡大し、ドルの価値が上がります。その結果、ドル円相場は円安・ドル高(円売り・ドル買い)に振れやすくなるという流れです。

次に金利です。米国が利上げを実施すれば、米金利は上昇圧力が高まりやすくなります。一般的な感覚でも、例えば金利が1%の金融商品と3%の金融商品がある場合、誰もが3%の金利が付く金融商品の方を購入したい気持ちになるでしょう。それと同じく、資金は金利の低いところから高いところへ流れるのが基本です。米金利が上昇すればドル資産への人気が高まり、為替市場では円安・ドル高の圧力が強まることになります。自国通貨を売ってドルを買い、金利の付く金融商品、例えば米国債などへの投資といった流れが考えられます。

<関連記事>
円高・円安とは何か 輸出・輸入企業への影響や原因、覚え方をわかりやすく解説

最後に物価(インフレ)と為替の関係です。インフレは、1個100円だったモノが200円に値上がりするような現象で、この例では以前より2倍のお金を支払わないとモノが買えなくなる状態です。お金(通貨)の側面では価値が2分の1になっていることを意味します。インフレ加速が懸念される米国では、物価の観点ではドルの価値が下がることを意味し、教科書的にはドル安材料の1つと言えます。

このようにみていくと、利上げに動くことはその国の通貨高を誘う要因が相対的に多くなり、ドル円相場では相対的に円安・ドル高への圧力が強まりそうにもみえます。しかし、今回の米利上げは供給制約も一因と言われるインフレの退治に向けた利上げの側面の強さも見え隠れします。拙速な利上げが米景気に悪影響を及ぼすようだと、「利上げ=通貨高」という教科書的なシナリオが簡単には進まない展開も想定されそうです。

 

過去の米利上げ局面、ドル円相場どうなった?

最後に、過去の直近2度の米利上げ局面(2004年6月~06年6月と15年12月~18年12月)におけるドル円相場はどうなったのか見ておきましょう。

2004年6月~06年6月の利上げ局面では、04年6月に米政策金利が1.00%から1.25%に引き上げられた後、06年6月に5.25%まで利上げが実施されました。2年間の金融引き締め局面で利上げ幅は合計4.25%に達しました。

この期間のドル円相場(月末終値ベース)は2004年6月の1ドル=108円台から一時は102円台まで円高・ドル安が進みましたが、その後は緩やかにドル買いが優勢となり、05年11月には120円近辺まで円安・ドル高が進む場面もありました。利上げが打ち止めとなった06年6月は114円台でした。この期間は一般的な為替のセオリーとされる「利上げ=通貨高」の関係が成り立ったと言えます。

一方、2015年12月~18年12月の利上げ局面では、15年12月に0.25%から0.50%に利上げが実施された後、18年12月にかけて米政策金利は2.50%まで引き上げられました。3年間の利上げ局面で利上げ幅は合計2.25%となり、04年6月~06年6月の2年間の利上げ幅(4.25%)に比べると緩やかな利上げが実施されたことが分かります。

この期間(15年12月~18年12月)のドル円相場(月末終値ベース)は、1ドル=120円台から円高・ドル安が進行し16年には100円前後まで円高が進む場面もありました。利上げを停止した時点でも109円台で開始時点よりも円高水準になりました。

同期間は米利上げ開始後、16年初めに世界的な景気減速が意識されました。また、16年6月に英国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)が決まったほか、17年には米国でトランプ大統領が就任し、米中貿易摩擦が勃発するなど複数の政治リスクも顕在化し、米利上げが景気下押しにつながりかねないとの警戒感が円高・ドル安を招いた一因とみられています。

米利上げと円相場の関係

今回は「利上げ=通貨高」になるか?

利上げは、基本的には景気の強さを示し、金利面での投資魅力拡大につながりやすくなるため、一般的に為替市場では「利上げ=通貨高」のシナリオが意識されやすくなります。ドル円相場では円安・ドル高が進みやすいと言えます。

しかし、今回は景気拡大の持続性に一抹の不安もある中で、インフレ退治を理由に大胆な米利上げが実施されるようだと、米景気への先行き懸念が台頭する可能性も否定できず、それがドル円相場の波乱要因になるかもしれません。米利上げの幅やペースがどのように進むかが、為替(ドル円)相場の行方を決定付けるポイントの1つになりそうです。

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著者名

QUICK Money World 荒木 朋


投資経験 1年未満
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2022/4/3 10:48

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投資経験 10年以上
投資商品

金利高で通貨高は、増配すると株価が上がりやすいのと似ていますね。

32/500
 

2022/3/1 20:06

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