【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】外国為替市場でドル高圧力がしぼみつつある。米経済の力強さに陰りが見え、米連邦準備理事会(FRB)の大幅利上げ観測が勢いを失いかけているためだ。FRB高官の発言をきっかけに17日の海外市場で円安・ドル高が進んだが、18日の東京市場では早々にその流れに歯止めがかかった。「ドルを買いづらいムードが漂っている」と話す市場参加者が増えている。
17日のニューヨーク市場では、米セントルイス連銀のブラード総裁の発言が注目を集めた。政策金利について「十分に制限的な水準ではない」と言及し、一段と利上げする必要性を強調した。最近はFRBの利上げペースが鈍化するとの観測が高まっていただけに、17日は一時1ドル=140円72銭近辺まで円売り・ドル買いが進んだ。
だが円安・ドル高の基調は続いていない。18日の東京市場では朝方こそ円売りが先行したものの、次第に円買い・ドル売りが増えて午後には139円64銭近辺まで下げ渋った。ある外資系銀行の為替担当者は「ドルの先高観を前提とした持ち高を構築する主体は減っている」と語る。21日朝の東京市場でも1ドル=140円台前半で推移している。
理由のひとつは米経済指標の悪化だ。フィラデルフィア連銀が17日発表した11月の製造業景況指数はマイナス19.4と10月(マイナス8.7)から大幅に悪化し、市場予想(マイナス6.2)も下回った。個別項目をみると先行指標となる「新規受注」がマイナス16.2と、前月比0.3ポイント悪化し米景気の減速感が強まっている。
大和証券の末広徹氏は「個別項目の数値を用いて12月1日に発表される11月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数を試算すると、48.3となり好不況の分かれ目となる50を割り込みそうだ」と予想する。ISM製造業景況感指数が50を下回れば、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ2020年5月以来だ。
景気が悪化してもインフレ率が落ち着かなければ、米金融引き締めは続く可能性がある。もっともフィラデルフィア連銀の景況指数では「支払価格」が下落、「入荷遅延」が改善するなど、インフレ圧力の緩和を示唆する内容も含まれた。「米国のマクロ経済環境を考慮すると、米利上げの減速は引き続き市場の共通認識となる」(ステート・ストリート銀行の貝田和重氏)というわけだ。
17日にドル高を誘ったブラード総裁の発言を巡っても、ドル売りムードを払拭するほどの影響を与えないとの見方もある。ブラード総裁は政策金利の適切な水準の設定を定式化した「テイラー・ルール」に基づいた分析を提示し、講演資料では適切な政策金利が5~7%だとした。
大和証券の末広氏は「テイラー・ルールは実際のインフレ率に影響を受けやすい」としたうえで「実際にインフレが下振れすればテイラー・ルールが示す適切な金利水準は切り下がる」と指摘する。その点でブラード総裁は、タカ派というよりは「インフレ重視派」で、「来年にかけてインフレが落ち着くとハト派に転じる可能性すらある」(同)。
米景気やインフレに一服感がみられるなか、外為市場では「年末越えのドル需要が一巡すれば、ドルは下落基調に転じるかもしれない」(外資系銀行の為替ディーラー)との見方も出始めた。