【QUICK Market Eyes 中山 桂一】日本取引所グループ(8697)傘下の大阪取引所は29日から「日経225マイクロ先物」など新たな商品の取引を始めた。想定元本(取引規模)の小さい商品となり、デリバティブ取引への参入が難しかった個人投資家の取引を呼び込むか注目だ。
日経225マイクロ先物の取引単位は日経平均株価×10円となる。ラージの100分の1、ミニの10分の1のサイスだ。大阪取引所はより細やかなリスク管理手段の提供と利用者の拡大を図る目的で「マイクロ」サイズを導入する。大阪取引所の市場企画部兼デリバティブ市場営業部の平地亮課長にポイントを聞いた。
――マイクロ先物を導入する経緯は。
「現物株では端株などの取引の小口化が進んでいるなか、ヘッジ手段としてデリバティブ商品の小口化を望む声が増えていた。相場上昇に伴い既存商品の想定元本や証拠金も上昇しており、個人投資家を中心にミニなどでも取引がしにくいとの声が寄せられていた」
――証券会社などの要望や反響はどのようなものがありましたか。
「ネット証券を中心にマイクロ先物の導入の要望が強かった。いよいよ導入となり、ネット証券からは前向きな受け止めが多い。3月に投資イベントにも参加して啓蒙活動をしたが、多くの個人投資家が興味を持ち前評判も上々だった。5月にはオンラインセミナーを実施し、3000人の参加者が集まった」
――流動性としてマーケットメーカーの参入が欠かせない。
「主要なマーケットメーカーにも認知してもらい、参入が見込まれている。十分なな流動性を提供し、取引初日から『板が薄い」状況は避けられると考えている」
――取引規模への期待や今後の認知度向上策は。
「歯切れの悪い回答になるが、事前のネット証券や個人投資家の期待感からは相応の出来高を期待している。今後は対面のセミナーを開き、認知度の向上につなげたい」
【ライターの目】
保有している現物株のサイズに合わせた細やかなリスク管理としてマイクロ先物は確かに個人投資家による取引活用に期待感がある。ただ、ある市場関係者は「活用促進には現物株とデリバティブの『損益通算』の実現が欠かせない」と指摘する。
損益通算は異なる金融商品の損益を相殺して税負担を軽くできるようにする税制だ。証券業界は現物株と先物とデリバティブの損益通算を認めて税負担を和らげるデリバティブの損益通算を要望してきたが、実現に至っていない。新たな小口商品の導入を機に、業界全体して改めて要望は強まる可能性がある。
大阪取引所はマイクロ先物の導入と同時に複数のESG先物や日本銀行が公表する無担保コールO/N物レートを原資産とする差金決済型のTONA3カ月金利先物も29日から導入する。
ESG先物は3つの指数に連動した先物を上場する。ESG先物は海外の取引所でも上場させる動きがあり、「ESGとしてヘッジニーズがさらに強まった場合に備えた対応」(平地氏)という。
TONA3カ月金利先物は東京金融取引所がすでに同様の取引商品を上場している。大阪取引所の市場企画部の塙明紘課長は「東京金融取引所はライバルではなく、新たなフローを作り出しお互いに成長していく」と説明する。ただ、「市場認知度は課題」とする。
諸外国に比べてデリバティブ商品が少ないと言われる日本。まずは個人投資家によるマイクロ先物の取引が定着するか、関心が集まりそうだ。