【日経QUICKニュース(NQN) 佐藤梨紗】外国為替市場では5月、円安・ドル高が鮮明だった。だが円相場の動きを「東京市場」と「海外市場」に分けて振り返ると、円安・ドル高が進むにつれ、5月後半は東京市場で実需筋からの円売り・ドル買いの動きが鈍った。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ打ち止めが根強く意識され、国内勢が円売り・ドル買いを急がない姿勢が浮かび上がる。
6月2日の東京市場で円相場は1ドル=138円台後半を中心に推移していた。5月初旬に133円台後半で推移していたのに比べ5円超、円安・ドル高の水準だ。5月はほぼ一本調子で円安・ドル高が進み、5月30日には140円93銭近辺と2022年11月下旬以来、半年ぶりの円安・ドル高水準をつけた。FRBによる6月利上げの観測が根強かったのが主因だ。米債務上限問題に対する懸念が和らいだのも重なり、主に海外市場で円売り・ドル買いが目立った。
ある国内市場関係者は「135円程度ではドルを買ったところもあると聞く。だが、足元の140円台近辺で(ドル)買いを入れているかは疑問だ」と話す。東京市場の値動きをみると、円相場が135円を円安・ドル高方向へ抜けた17日ごろを境に、東京市場での円売り・ドル買いが鈍った様子が見てとれる。
日銀がまとめた3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で大企業・製造業の23年度の想定為替レートは132円08銭と、足元の実勢と比べて円高水準にある。国内銀行の為替ディーラーからは、国内輸出企業などによる円買い・ドル売りは「まだアクティブに増えている感じではない」ながらも、半年ぶりの円安・ドル高水準に近い足元の相場では「円買い・ドル売り注文が徐々にみえてきている」との声が出る。
他方、久々の円安・ドル高水準とあって輸入企業などは円売り・ドル買いを急いでいない様子がうかがえる。「135円より円高・ドル安の水準、理想をいえば130円を割り込んだ水準で注文を入れたい」(別の国内銀の為替担当者)というのが本音のようだ。必要に迫られてドルを調達する企業はあるというが、国内勢には様子見ムードが強い。
背景には、FRBの利上げ打ち止めが視野に入り始め、米金利の先高観が薄れていることなどがある。米消費者物価指数(CPI)は昨夏から直近の今年4月分まで、前年同月比の伸びで鈍化傾向が続く。米国の物価上昇にピークアウトの兆しが出てきていることからFRBが利上げ停止に踏み切るとの見方が強まり、23年末にかけて円高・ドル安が進むと予想する市場参加者は多い。
日本の当局による為替介入への警戒感も、円安・ドル高の進行に一定の歯止めをかけているかもしれない。財務省と金融庁、日銀が5月30日に国際金融資本市場に関する情報交換会合を開いた。足元の円相場の動向について協議したとみられる。「口先介入」を受けて30日の東京市場で円相場は1円程度円高・ドル安に振れる場面があった。
米国では2日に5月の米雇用統計が発表される。6月の利上げ観測は足元で後退しているとはいえ、米労働市場は堅調さを保っている。雇用統計を受けて7月の利上げ再開が意識されれば、海外市場では改めて円安・ドル高が進む可能性がある。だが、国内勢は一段の円売り・ドル買いには慎重かもしれない。