【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】外国為替市場で円安・ドル高の基調が続く。米景気が底堅く米連邦準備理事会(FRB)には利上げ余地ありとの見方が幅広い通貨に対するドル買いを誘っているが、なかでも対円が顕著になっている。ドルの総合的な強さを示すドル指数と円の対ドル相場を比べると「ドル高」以上に「円安」が現在のテーマとなっているのが浮き彫りになる。
7日の東京市場で円は一時1ドル=139円16銭近辺に上昇した。約33年ぶり高値圏に位置する日経平均株価が7日午前に「高値波乱」となり、「低リスク通貨」とされる円に買いが入った。だが、勢いは限られる。139円台前半で上値は重い。
FRBの金融引き締めが長引くとの観測の強まりに伴う「ドル買い」よりも「円売り」の勢いは強い。ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数と円の対ドル相場について過去1年の動きを比べてみた。円が対ドルで約32年ぶりの安値である150円台をつけた昨秋も含めて高い連動性をみせてきたが、今年3月下旬からは乖離(かいり)が目立ってきた。ドル指数の上昇が示す「ドル買い」以上に円売りが加速しているのがわかる。
第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストは「23年に入ってから円相場の下落の要因が『円安』に変わってきた」と話す。ユーロやポンドなど金融引き締めが続く欧州の通貨も堅調で「日銀の金融緩和の存在感が増していることの証左だ」と分析する。緩和を続けるのは日銀だけ、という構図がくっきりしてきたわけだ。
シティグループ証券の高島修チーフFXストラテジストは6日付のリポートで、日米の金利差や期待インフレ率の格差、米株式相場などをもとに円相場の簡易的な適正値を推計した。それによると現時点では「137円台」で、実勢は一段の円安方向に振れている。日本株投資が活発になり「海外投資家の(為替変動リスクの)ヘッジ取引や年金などのリバランスに伴う円売りが膨らんでいるのが一因」(高島氏)という。
6日発表の4月の毎月勤労統計では、名目賃金にあたる現金給与総額のうち所定内給与は前年同月比1.1%増にとどまった。日銀が注視する賃金上昇は鈍いが、春季労使交渉の結果は5月以降、徐々に反映されていくとの見方もある。
こうした経済環境や円安の勢いを踏まえると「日銀は緩和修正を探る局面となるかもしれない」(第一生命経済研の藤代氏)との声も聞こえつつある。市場でいったん広がった「日銀は当面、動かない」との見方が大きく変わるタイミングが、円安というテーマの転換期となるだろう。