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難しいHFT規制、見えるか「究極の受益者」 監査のプロに聞く

日経QUICKニュース(NQN)=藤田心

 コンピューターによる高速の高頻度取引「HFT」が株式などの先物や外国為替の市場で存在感を増して久しい。多額の売買により市場に厚みをもたらす半面、長期投資家などの収益機会を奪っているとの指摘も絶えない。HFTの不在時に相場環境が激変するリスクも無視できなくなっている。

 HFTに対する規制は強化すべきなのか。また、その仕組みはどうあるべきか。長期運用型ファンドなどの監査や運用会社の海外進出支援、海外規制の対応支援を手掛け、海外のHFT事情に詳しいPwCあらた監査法人パートナーの久保直毅氏は「資金の出し手となる『究極の最終受益者』や投資行動を当局が把握する仕組みの確立が重要だ」と話す。

久保直毅(くぼ なおき)氏 PwCにて21年にわたり、資産運用会社・信託銀行を中心とする大手金融機関に対する監査・アドバイザリー業務を担当する。2010~15年にPwCルクセンブルク法人に出向。日系金融機関向けに監査業務や海外規制アドバイザリー業務を手掛ける。その後、投資信託協会や日本公認会計士協会の委員を歴任し、現在に至る。

 

売買の公平性保てれば共存が可能

──HFTの現状をどう捉えていますか。

 「売買の公平性が担保されるのなら、HFTが存在すること自体は問題ないだろう。優れたコンピューターが利益を総取りしてしまう可能性は残るが、現状では長期マネーの投資機会を大きく損なってはいないと理解している」

 「HFTに限らず、ごく限られた短期スタンスの投機筋などによる大量売買で相場が操縦されることがあってはならない。買いたいときに買える、という市場の流動性の前提が崩れるようだと危うい。そのために法律での規制や金融当局によるモニタリング(監視)が必要になってくる」

──HFTは最速マイクロ秒(100万分の1秒)単位で動き、相対取引の外為市場などではその捕捉が極めて困難です。そういう「ブラックボックス」が市場に入り込むなかで、リスクをどうコントロールすべきなのでしょうか。

 「誰がどれだけお金を持って、どこでどう取引しているか当局が(情報を)集める仕組みはまだ確立されていない。ただ4~5年前から欧米を中心に、当局報告に関するルールが整備されつつある」

 「具体的には、欧州連合(EU)の『第2次金融商品市場指令(MiFID2)』や『オルタナティブインベストメント・ファンドマネージャーズ指令(AIFMD)』だ。HFT業者を登録制にし、大量に取引するヘッジファンドがどういう戦略で、どこで取引しているかを報告させる仕組みを作った」

 「登録業者制は日本の株式市場でも採用されている。当局にはここ数年でデータがかなり集まったと思う。今後はビッグデータの活用法が議論の対象になるだろう」

データ分析で当局が警告出す仕組みが必要

──データの活用方法について何かイメージはお持ちですか。

 「マネーがどこに集まっているのかを把握するのがまず重要だ。2008年のリーマン・ショックなどの例で明らかな通り、金融危機が再来すれば連鎖的に金融機関が破綻しかねない。当局が集めたデータを公表するのも1つの手だろうが、適切なデータ分析が可能なところは少ない。まず当局が分析して危機の予兆をつかみ、実際に市場にあらわれた段階でアラート(警告)を流す仕組みを整備するのが現実的だ」

 「問題は報告にかかるコスト負担をどうするかだ。金融機関から当局に取引記録を報告するにはまず、報告用に自社データの書式を当局向けに修正する必要に迫られる」

 「報告の頻度についても、今後はリアルタイムでの報告が求められるはずだ。体力があっても大変な負担だろう。報告はHFT業者だけでなく、伝統的な運用会社や証券会社など資本市場への参加者全員に求められる。低金利環境のもとでただでさえ利益を上げるのが難しくなっているのに、これ以上、負担は増やせないとの声は多い」

──HFTの実態を把握するのに大事な点は。

 「あくまでも個人的な意見だが、HFT業者の背後にいる資金の最初の出し手、つまり『究極の最終受益者』が誰なのかをまず把握しなければならない。極端な話をすれば(HFTは)元をたどると特定の人物に行き着くかもしれない。その場合、その人の意図で相場操縦ができてしまうことになる」

 「相場操縦のような事態を防ぐためには、グローバルでの情報交換や規制の枠組みを固めるのが先決だ。本人確認の仕組みは欧米に比べ日本は出遅れている。国際的な水準に各国が足並みをそろえることが重要だろう」

 「取引先の運用会社などと話していると、新たなテクノロジーを利用したビジネスモデルの台頭で、既存のビジネスモデルに対し相当な危機感を持っているのがよくわかる。仮想通貨を使った資金調達(ICO)など金融には新たな世界が広がってきた」

これからは「低収益」定着時代へ

――機械化はもう後には戻れないところまで来ています。今後の金融・資本市場をどう予想しますか。

 「世界のいたるところでマイナス金利がみられる環境のもとでは、規制にかかるコスト圧迫なども考慮すると、既存の金融商品で得られる収益は長きにわたって低い水準にとどまると覚悟を決めてかからないといけない。投資家や運用会社が採るべき策は、テクノロジーの活用などによる人的なコスト削減で少しでも収益を底上げすること。あるいは既存の運用手法だけでなく、テクノロジーを活用した新たな運用スタイルを模索する必要がある」

 ※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。

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